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横浜地方裁判所 平成5年(ワ)4111号 判決 1994年10月17日

原告

中島彰

ほか一名

被告

宮川邦彦

主文

一  被告は、原告ら各自に対し、五一七万一八一三円及びこれに対する平成五年五月六日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告らのその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、これを三分し、その二は原告らの負担とし、その余は被告の負担とする。

四  右一は、仮に執行することができる。

事実

一  当事者の求めた裁判

1  原告

(一)  被告は、原告ら各自に対し、一六〇〇万円及びこれに対する平成五年五月六日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

(二)  訴訟費用は被告の負担とする。

(三)  仮執行宣言

2  被告ら

(一)  原告らの請求を棄却する。

(二)  訴訟費用は原告らの負担とする。

二  当事者の主張

1  請求原因

(一)  交通事故の発生

訴外中島博(以下「亡博」という。)は、次の交通事故のため、胸部打撲・肺臓破裂等により死亡した。

(1) 日時 平成五年五月六日午後三時二〇分ころ

(2) 場所 神奈川県海老名市大谷五一二八番地先交差点

(3) 加害車 普通乗用自動車(相模五三つ一五五二)

右運転者 被告

(4) 被害者 亡博(被害車〔自動二輪車・相模る一四六九〕運転中)

(5) 事故態様 亡博が被害車を運転し、杉久保方面から国分寺方面へ直進中、加害車が右方から一時停止標識を無視して進入したため、出合い頭に衝突した。

(二)  責任原因

被告は、加害車の運行供用者であるから、自動車損害賠償保障法三条により、本件事故により生じた損害を賠償する責任がある。

(三)  損害

本件事故による損害は次のとおりである。

(1) 亡博 五八九二万円

<1> 逸失利益 四八九二万円

亡博は、当時、一八歳の健康な青年であり、小田原城北工業高校定時制の二年生であつた。したがつて、その逸失利益の現価は、平成四年度男子労働者平均賃金(学歴計)五四四万一四〇〇円、就労可能年数六七歳までの四七年、生活費控除率五〇パーセントとし、ライプニツソ係数一七・九八一〇を適用して算定するのが相当であり、次の計算のとおり、四八九二万円(一万円未満、切捨て)となる。

五四四万一四〇〇円×〇・五×一七・九八一〇=四八九二万九〇六円

<2> 慰藉料 一〇〇〇万円

前途有望な一八歳の青年が瞬時に絶命した無念さは筆舌に尽くし難く、その慰藉料としては一〇〇〇万円が相当である。

(2) 原告ら

<1> 葬儀費用 一二〇万円(各自六〇万円)

原告らは亡博の父母であり、亡博の葬儀費用として各自六〇万円を下らない金員を支出した。

<2> 慰藉料 一〇〇〇万円(各自五〇〇万円)

一七年間育て上げた息子を失つた原告らの精神的打撃は甚大であり、その慰藉料としては各自五〇〇万円が相当である。

(3) 相続

原告らは亡博の父母として同人の前記損害賠償請求権(五八九二万円)を各自二分の一(二九四六万円)ずつ相続した。

(4) 損害の填補

原告らは自賠責保険から三〇〇〇万円(原告ら各自一五〇〇万円)の支払を受けた。

(5) まとめ

以上によると、原告らの損害の残額は、各自二〇〇六万円となるが、本訴ではこのうち各自一五〇〇万円を請求する。

(6) 弁護士費用 二〇〇万円(各自一〇〇万円)

(四)  よつて、原告らは、被告に対し、原告ら各自に一六〇〇万円及びこれに対する本件事故日である平成五年五月六日から支払済みまで年五分の割合による遅延損害金を支払うことを求める。

2  請求原因に対する被告の答弁

(一)  請求原因(一)は、(5)のうちの「加害車が右方から一時停止の標識を無視して進入した」との点は否認し、その余は認める。

(二)  同(二)は、被告が本件事故により原告らに生じた相当因果関係の範囲内の損害について賠償すべき法的地位にあることは認める。

(三)  同(三)は、不知。

なお、原告らは、亡博の逸失利益の主張において、就労可能年数に対応するライプニツツ係数を一七・九八一〇としているが、亡博は事故当時一八歳で定時制高校の二年生で、就労の始期は早くとも二〇歳であるから、その逸失利益の算定において適用されるべきライプニツツ係数は、次の計算のとおり、一六・三〇九三である。

事故当時の一八歳から六七歳まで四九年間に対応するライプニツツ係数一八・一六八七―右一八歳から就労の始期である二〇歳に至るまでの二年間に対応するライプニツツ係数一・八五九四=一六・三〇九三

3  被告の主張

本件事故は、普通乗用自動車(加害車)の進行道路にのみ一時停止の標識のある交差点において、被告が標識に従つて加害車を一時停止させたものの交差道路の安全確認不十分であつたため、被害車に気づくのが遅れ、自動二輪車(被害車)と出合い頭に衝突したというものであり、この種類型の事故についての基本的過失割合は、一般に、加害車六五パーセント、被害車三五パーセントと解されているところ、被害車は、最高速度毎時三〇キロメートルと指定されている道路を時速五八ないし六三キロメートルで走行していたもので、亡博には二八ないし三三キロメートルの速度違反があつたから、被害車の過失割合は、一五パーセント加重修正されるべきである。したがつて、本件事故の発生については亡博にも過失があり、その割合は五〇パーセントであるから、本件事故による損害の算定に当たつては同割合による過失相殺がなされるべきである。

4  被告の主張に対する原告らの答弁・反論

被告の主張は、争う。

被告は、加害車を一時停止した際、被害車の進行してくる左方面は六〇ないし七〇メートル見通すことができたのに、同方面から本件交差点に向けて進行する車両の確認を怠り、被害車の存在に気づかないまま加害車を発進させた。しかも、被告は、発進後も、別紙「交通事故現場見取図」(以下「見取図」という。)の<2>地点では、左方一〇〇メートルを見通すことが十分可能であり、左方をよく見ていれば被害車を発見し得たはずであるのに(被告が最初に被害車を発見したのは、<4>地点においてであり、そのときの被害車の位置は<ア>地点である。加害車が<2>地点から<4>地点まで進むのに要した時間は二秒くらいであるから、被害車は、時速六〇キロメートル程度の速度であつたとすると、加害車が<2>地点のときは<7>地点から三〇ないし三五メートル杉久保方面寄りを進行していたことになり、これは右の見通し可能な一〇〇メートルの範囲内にある。)、右方の確認はしたものの、左方の安全確認をせず、被害車を見落として加害車を交差点に進入させたため、亡博は驚いてブレーキをかけ、ハンドルを左に切つて事故発生を避けようとしたが間に合わなかつたものと思われる。

したがつて、本件事故の発生は、被告が被害車の存在に気づかずに加害車を発進させ、その後も左方の確認を怠つて交差点に進入させたことに最大の原因があり、亡博に速度違反があつたにしても、それは被告の右のような著しい過失と相殺されるというべきであるから、本件において妥当な過失割合は、被告八五パーセント程度、亡博一五パーセント程度と考えるのが相当である。

5  原告らの反論に対する被告の再反論

被告は、一時停止線付近で加害車を一旦停止させ、交差道路左右に走行車両がないことを確認したうえ、加害車を交差点に進入させたものであるところ、速度は、初速ゼロで、衝突直前は時速一五キロメートル程度であつたから、発進から衝突までの平均速度は、仮に算術平均による数値をとるとしても時速七・五キロメートルである。

他方、被害車は、前記のように時速五八ないし六三キロメートルの速度で走行していたものであるが、これはスリツプ痕開始点における推定速度であり、その直前からの減速があつたとみられるから、それ以前はさらに高速走行していたものと考えられる。

そこで、事故直前数秒間の、加害車の平均時速を七・五キロメートル、被害車のそれを六三キロメートルとすると、被告が左方を確認した見取図<1>地点から衝突地点<×>地点までの距離は一五・七メートルであるから、次の計算式のとおり、被害車は、加害車がこの距離を走行するのに要した時間に一三一・八八メートル走行していることになる。

一五・七×(六三÷七・五)=一三一・八

したがつて、一時停止線付近において左方が六〇メートル程度見通しがきいていたにしても、また被告がどれほど注意深く左方の確認を行つたとしても、<1>地点付近で被害車を発見することができないことは明らかである。被告には、制限速度を三〇キロメートル以上も超えて走行する車両の存在を想定して運転する義務はなかつたものといわなければならず、本件事故における被告の過失割合は、どんなに譲歩したとしても、前記主張の五〇パーセントを上回ることはない。

三  証拠関係

記録中の書証目録のとおりである。

理由

一  請求原因(一)(交通事故の発生)は、(5)のうちの「加害車が右方から一時停止の標識を無視して進入した」との点を除き、当事者間に争いがない。なお、本件事故の態様については後記の被告の主張に対する判断で認定するとおりである。

二  請求原因(二)(責任原因)については、被告が本件事故により原告らに生じた相当因果関係の範囲内の損害について賠償すべき法的地位にあることは被告の自認するところである。

三  請求原因(三)(損害)について判断する。

1  亡博の損害

(一)  成立に争いのない甲第三号証、第五号証及び弁論の全趣旨によれば、亡博は、本件事故当時、一八歳(昭和四九年七月一〇日生まれ)で、小田原城北工業高校定時制二年に在学する健康な男子であつたことが認められる。したがつて、その逸失利益の現価は、年収を賃金センサス平成四年第一巻第一表の産業計、企業規模計、学歴計、男子労働者全年齢平均賃金五四四万一四〇〇円、生活費控除率を五〇パーセント、就労可能年数を二〇歳から六七歳までの四七年間とし、中間利息の控除についてライプニツツ係数を適用してこれを算定するのが相当であり、次の計算のとおり、四四三七万二七二円となる。

五四四万一四〇〇円(年収)×(一-〇・五〔生活費控除率〕)×一六・三〇九三(事故当時の一八歳から六七歳までの四九年間に対応するライプニツツ係数一八・一六八七から、右一八歳から就労の始期である二〇歳に至るまでの二年間に対応するライプニツツ係数一・八五九四を差し引いたもの)=四四三七万二七一二円(円未満、切捨て)

(二)  慰藉料

亡博の死亡慰藉料は総額二〇〇〇万円と認めるのが相当であるところ、原告らはこれを亡博自身の損害と原告ら固有の損害とに分けて主張していることに鑑み、亡博の慰藉料としては一〇〇〇万円をもつて相当と認める。

2  原告ら

(一)  葬儀費用

前掲甲第三号証、弁論の全趣旨により成立を認める甲第四号証及び弁論の全趣旨によれば、原告らは亡博の父母であり、亡博の葬儀費用として各自六〇万円を下らない金員の出損を余儀なくされたことが認められる。原告ら主張のとおり、各自六〇万円、合計一二〇万円をもつて本件事故と相当因果関係のある損害としての葬儀費用と認める。

(二)  慰藉料

原告ら主張のとおり、各自五〇〇万円、合計一〇〇〇万円をもつて相当と認める。

3  相続

原告らが亡博の父母であることは前記認定のとおりであり、これと弁論の全趣旨とを合わせると、原告らは1認定の亡博の損害に係る損害賠償請求権(五四三七万二七一二円)を各自二分の一(二七一八万六三五六円)ずつ相続したものと認められる。

4  まとめ

以上によると、本件事故による亡博及び原告らの損害(なお、弁護士費用については後記のとおりである。)は合計六五五七万二七一二円であり、相続によるものを含む原告ら各自の損害は三二一七八万六三五六円となる。

四  被告の主張について判断する。

1  前記一の当事者間に争いがない事実、成立に争いのない乙第一号証の一・二、同号証の七、九ないし一一、一五、一八ないし二〇、二三及び弁論の全趣旨を総合すると、次の事実が認められる。

(一)  本件事故現場は、杉久保方面から国分寺台方面への市道(甲道路)と綾瀬方面から東名海老名サービスエリヤ方面への市道(乙道路)とが十字に交わる、信号機による交通整理の行われていない交差点であり、その場所的状況は、概ね、見取図のとおりである。甲道路は、片側一車線(幅員二・九メートル)の車道とその両側に幅員各二・五メートルの歩道が設けられており(全幅員は一二メートル)、最高速度は時速三〇キロメートルと指定されている。乙道路は、片側に路側帯が設置された歩車道の区別のない全幅員六・六メートルで、交差点手前に一時停止標識と停止線が設置されている。

(二)  被告は、加害車を運転し、乙道路を綾瀬方面から本件交差点に差しかかり、標識に従い見取図<1>地点で一時停止して甲道路左右を見たうえ、ローギアでこれを発進させた。そして、<1>地点から六・三メートルの<2>地点付近において、<1>地点では見通しの悪かつた右方の安全は確認したが、<甲>地点付近に歩行者を見かけてそれに気を奪われたこともあつて、発進後、左方からの車両等の交通状況は全く確認しないまま時速約一五キロメートルで加害車を進行させたところ、<2>地点から三・五メートルの<4>地点辺りに至つたとき、エンジン音を耳にして左方約三〇・七メートルの甲道路<ア>地点付近を本件交差点に向かつて走行してくる被害車を初めて発見し、危険を感じてブレーキをかけたが間に合わず、加害車が<4>地点から四・四メートルの<5>地点まで進んだ時点で<×>地点において加害車前部左側と被害車前部右側が衝突し、被害車は<×>地点から約二三メートル余も先の<ウ>地点に転倒・停止し、これを運転していた亡博は<イ>地点に振り落とされた。

(三)  加害車から甲道路左方への見通しは、<1>地点においては約七〇メートル、<2>地点では約一〇〇メートルが可能な状況であつた。また、見取図に示されているとおり、被害車は、<ア>地点から<×>地点に至る間にはスリツプ痕、<×>地点から<ウ>地点の間には擦過痕を残しており、右スリツプ痕の開始点における被害車の速度は時速約五八ないし六三キロメートルであつたと推定されている。

以上のとおり認められる。この認定を動かすに足りる証拠はない。

2  右認定の事実に基づいて検討すると、次のとおりである。

(一)  加害車は、<1>地点から発進し、その後時速一五キロメートル程度の速度で進行中<1>地点から一四・二メートル進んだ<5>地点に至つた時点で被害車と衝突したのであり、初速ゼロであつたことを考えると、その間の時速は平均一〇キロメートル程度を上回るものではなかつたと認めるのが相当であるから、<1>地点から<5>地点まで一四・二メートルの走行には少なくとも五・一秒程度の時間を要したことになる。一方、被害車は、スリツプ開始点において時速五八ないし六三キロメートルの速度であつたと推定されており、本件事故直前におけるその速度は時速六〇キロメートル程度であつたと認めるのが相当であるから(なお、右の推定がスリツプ開始点におけるものであることからすると、それ以前はこれを上回る速度で走行していたのではないかと思われないでもないが、これを具体的に認定するに足るだけの証拠はないから、右のように認定するほかない。)、右の五・一秒前、すなわち加害車が<1>地点に一時停止した時点では、少なくとも同地点から約八五メートル離れた地点を走行していたことになる。そうすると、<1>地点における甲道路左方の見通し可能な距離は約七〇メートルであつたから、被告が同地点で左方に対する十分な注意を払つたとしても、被害車が走行してくるのを視認することはできなかつたことになる。したがつて、被告が加害車を<1>地点で一旦停止させた後、左方からの車両等の走行がないと考えて加害車を本件交差点に進入させたことをもつて注意義務の懈怠があつたとすることはできない。しかしながら、加害車が<1>地点から六・三メートル進んだ<2>地点においては、約一〇〇メートル見通すことが可能であつたところ、同地点は発進後既に六・三メートル進んだ地点で、加害車は加速されていたはずであるから、どんなに控えめにみても、同地点から<5>地点に至る七・九メートルの間における速度は平均一〇キロメートル程度の時速を下回ることはないと考えられるのであり、そうだとすると、加害車が右の間の走行に要した時間は約二・八秒となるところ、時速六〇キロメートルの車両が二・八秒間に進む距離は約四六メートルであるから、被告は、<2>地点において、甲道路を左方から被害車が疾走してくるのを容易に視認し得たものというべきである。被害車の速度は前記のとおり時速六〇キロメートル程度と認定するほかないのであるが、仮に時速八〇キロメートル程度であつたとしても二・八秒間に進む距離は約六二メートルであるから、右の結論は変わらない。また、仮に、加害車の速度が時速一〇キロメートルを下回り、例えば時速七・五キロメートル程度であつたとしても、<2>地点から<4>地点までの所要時間は約三・七九秒、この間に時速六〇キロメートルの車両が進む距離は約六三メートル、時速八〇キロメートルであれば約八四メートルであるから、被告は、<2>地点において被害車が疾走してくるのを視認し得たことになる。そして、右の<2>地点は未だ甲道路の車両の通行を妨げる位置には至つていなかつたのであるから、被告としては、左方からの車両の進行を妨げないように注意を払いながら加害車を進行させるべき注意義務を負つていたことはいうまでもないところ、被告は、加害車発進後、左方からの車両等の交通伏況は全く確認しないままこれを進行させ、その結果、本件事故を発生せしめたものであり、加害車を一時停止させ、交差道路の左右を見て本件交差点に進入させたとはいうものの、実質的には、一時停止標識の趣旨・目的に適うだけの行動をとらなかつたのとほとんど変わらないというべきであるとともに、加害車の通行していた乙道路の幅員よりも被害車の走行していた甲道路の幅員の方が明らかに広いことをも勘案すると、被告には、左方に対する安全不確認という通常の注意義務違反を超える、重大な、あるいは著しい過失があつたものと認めるのが相当である。

(二)  一方、亡博は、指定最高速度を約三〇キロメートルも超える高速度で被害車を運転し、これをそのまま本件交差点に進入させたものであるところ、被害車進行方向から交差道路である乙道路右方への見通しの状況と被害車・加害車の各進行状況からするならば、同人は、ごく普通の前方注視義務を尽くしていれば、加害車が<2>地点に進入し、被害車進路前方の交差道路を横断しようとしていることを相当手前で発見・察知し得たはずであるとともに、同人が右のような高速度で被害車を走行させてさえいなければ、格別のこともなく本件事故を回避し得たものと考えられるところである。したがつて、本件事故の発生については同人にも重大な過失があつたといわなければならない。

(三)  右(一)(二)によれば、本件事故は、被告及び亡博の各過失が相俟つて発生したものであることが明らかであり、その過失割合は、被告六〇パーセント、亡博四〇パーセントと認めるのか相当である。なお、裁判実務上、信号機による交通整理の行われていない交差点におけるいずれも直進の単車と四輪車との出合い頭事故のうち、四輪車側にのみ一時停止の規制がある場合については、四輪車が一時停止をしていたときは、一時停止後安全の確認を怠りあるいは不十分であつたために事故が生じた場合をも含めた基本的過失割合を四輪車六五パーセント、単車三五パーセントとし、その余のそれぞれの著しい過失及び重過失を修正要素ととらえる見解に基づいて過失割合の認定が行われる例が多いと思われるが、右(一)で認定・説示したように、被告の過失は、左方に対する安全不確認という通常の注意義務違反を超えるものというべきであり、これをすべて右の六五パーセントに含まれると解するのも相当とは思われず、この観点からする加重要素の割合と亡博の速度違反による加重要素の割合とを勘案し、本件における過失割合は前記のように認定することとした次第である。

3  前記三で認定した損害について右の過失割合による過失相殺をすると、本件事故による亡博及び原告らの損害は三九三四万三六二七円(円未満、切捨て)であり、相続によるものを含む原告ら各自の損害は一九六七万一八一三円(円未満、切捨て)である。

五  損害の填補

本件事故による損害について原告らが自賠責保険から三〇〇〇万円(原告ら各自一五〇〇万円)の支払を受けたことは原告らの自認するところであるから、これを四3認定の損害額から差し引くのが相当である。したがつて、原告らの各自の損害の残額は四六七万一八一三円となる。

六  弁護士費用

前記過失相殺を含む本件に現れた諸般の事情を総合勘案すると、本件事故と相当因果関係のある損害としての弁護士費用は、原告ら各自について五〇万円、合計一〇〇万円と認めるのが相当である。

七  まとめ

以上によれば、原告らの損害の残額は各自五一七万一八一三円であり、原告らの本訴請求は、被告に対し、原告ら各自に同金額及びこれに対する本件事故日である平成五年五月六日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度において理由があり、その余は失当である。

よつて、民事訴訟法八九条、九二条、九三条、一九六条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 根本眞)

交通事故現場見取図(図面 2)

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